「ニュージーランド、ギフテッド教育を取り巻く環境」の記事でも書いた、Mind Plusという、ギフテッド児のための1デイスクール(週に1日、通常クラスを休んでギフテッド教育を受けるためのプログラム)のオンライン説明会に参加したので、自分のメモも兼ねて、ここに記しておく。
Mind Plusとは
NZCGE (NZ Centre for Gifted Education)が主催する、ギフテッド教育プログラムが、Mind Plusだ。
独自の選考プロセスにて、プログラムの趣旨に合うギフテッド児を集め、週 に1度まる1日の授業を開催する。
授業の受け方は次の4種類。
- MindPlus Our School
オリジナル形態。全国14箇所にある主催校のいずれかにて対面受講。6〜13歳対象。 - MindPlus Your School
自校にいる他のギフテッド児達と自校にて集まり、Zoomにて受講。6〜13歳対象。 - MindPlus Online
特別講師の授業を、自宅からオンラインにて受講。6〜13歳対象。 - MindPlus PreSchool
2〜6歳までのギフテッド児とその保護者のための半日プログラム。子供の興味と能力をもとに、探検ベースで刺激的な環境を与える。
MindPlus Onlineというのは、来学期からスタートする新しい試みなのだそうだが、つまり、会場で受ける、自分の学校の別室にて受ける、自宅から受ける、のどれでも選択することが出来るのだ。
幸いにも我が家は、自宅から車で10分くらいの場所に会場がひとつあり、選考にさえパスすれば通うのは決して難しくない状況だ。
しかし、全国の子どもを取り巻く様々な環境を考えると、これだけのチョイスが用意されていることの恩恵は計り知れないと思う。近所に開催校がない、両親が学外への送迎を出来ない、精神的な理由で同年代の子供の中に入りづらい、精神的理由で不登校になっている、など、受講を阻む要因は数知れないからだ。
余談だけれど「Your School」(My Schoolではない)を見て、日本の「マイナンバーカード」というネーミングが外国人に笑われまくったのを思い出した…。悲し。
誰のためのプログラム?
当然なのだけれど、誰のためのプログラムか、は明確であった。
ギフテッドラーナー達のためのプログラム。
「ギフテッド」の定義の説明もあった。学習に対する意欲や学習方法の傾向、ギフテッドであるが故の社会的困難など、基本的にはものの本に書かれている内容だったのだが、印象的だったのは
「ここで私達の言うギフテッドラーナーというのは曖昧なカテゴリーではありません。ある特定の脳を持っている状況のことで、例えば学習障害のある子たちのグループがいるように、はっきりと特定できるグループが存在します。全ての子達に何かしらの才能があり、全ての子供がユニークである、と言った話とは異なります。」
と、はっきりと明言したことだった。
全ての子どもたちのうち、5〜10%はギフテッドのカテゴリーに入り、どの学校どのクラスにも必ず一人はいるはずの確率だ、と言うと同時に、そうでない子どもはそうでないと、はっきりと言っているのだ。
このプログラムの存在意義や、内容を決定していくプロセスにおいても、この点をはっきりさせておくのは、とても重要なことなのだと思う。
書かない授業と、社会性・感情面のサポート
説明会の間に、具体的にはどんな1日なのですか、という質問もあったのだが、説明は簡単ではないとのこと。
とにかく子ども中心で、本人がやりたいことを追求するにはどうすれば良いのかを考えて、それぞれのプロジェクトを進めているため、クラスの様子は年齢によっても、その子が取り組んでいることによっても、それぞれに異なるそうだ。
しかし1日の流れとしては、基本的に以下のような要素が含まれるとのこと。
Conceptual Learning
(コンセプト型の学習)
年度ごとに決められたコンセプトに沿った探求型の学びの時間。
例えば今年は「システム」をコンセプトとしている学校があり、ゲームのシステム、テクノロジカルシステム、経済システム、エコシステム、などへと展開し、それぞれが探求をしているそう。
学習においては、文字を書くことはとても少なく、手を使って実際に行う作業や、口頭で発言したり議論したりすることが多い。なぜなら、ギフテッドラーナーは書くことが好きでない子が少なくないからだそう!
頭の回転が速いので、手の動きが思考のスピードについて来れなかったり、完璧主義なので綺麗に書けているかミスがないかなどが気になってしまって、思考に集中できなくなるのだそう。
Understanding yourself as a gifted learner
(ギフテッドとしての自分を知る)
ギフテッドという概念を通して自分のことを知り、自分の強みや弱みを理解し対処していくための時間。
社会性・感情面を発達させるためのアクティビティを行ったり、ギフテッドの著名人たちが子どもの頃に向き合ったチャレンジなどを知ることで、ギフテッドネスについての理解を深める。
個人的にはこれがとても素晴らしいと思った。
例えばギフテッド教育先進国と言われるアメリカでさえ、ギフテッド教育は才能拡張のために存在し、精神面や社会面が置いてけぼりになるため、ギフテッド児が年齢を重ねて鬱病などになることも多いのだと言う。Mind Plusでは、才能拡張よりも、ギフテッド児の特性、社会面、感情面での発達凹凸も含めての支援を行うこちらを、むしろメインに考えているそう。
これは、とても、とても大切!
Creative thinking, complex thinking
(クリエイティブで複雑な思考法)
ギフテッドラーナーの脳を刺激するための、いわば「脳のご飯」。
(説明会では「Feed the brain」と説明されていた)
物事を様々な面から捉えて深く理解するためのアクティビティが行われる
講師の多くはギフテッド
また、講師の多くは自分自身がギフテッドであり、ギフテッドや2Eの子どもを持つ親であることも少なくない。採用に関して必須条件ではないものの、必然的にそのような人たちが集まっているとのこと。それは、ギフテッドに対する理解も深いわけだ!!!
世間一般で思われているよりも、かなり育てづらいと思えるギフテッド児たち。子どもを送り出す親にとっても、これだけ安心な環境は、なかなかないと思う。
ちなみに、Mind Plusの卒業生で、現在ここで働いている人もいるそう。
参加者の選考方法
Mind Plusに参加するには選考を通る必要がある。
選考は、書類とワークショップの両方で行われる。医師等の専門家による正式な診断書は不要だ。
書類は、
・学校長の許可(Principal’s Approval)
・学級担任の紹介状(Teacher Referral Form)
・保護者による紹介状(Parent and Whanau Referral Form)
の3点。
Q&Aなどを見ると、学校によっては校長の許可を渋られると言うような話が割とあり、なぜかと思ったら、どうやら参加校は寄付(会費の納入?)をする必要があるらしい。詳しい金額はAnnual Reportにてと書かれていたが、最大1000ドル(約8万円)とあった。
(校内でギフテッド教育のための人材や設備を揃えようと思ったら、とてもじゃないけど1000ドルでは出来ないから、行政的な整備としては安いものだと思うけど、各校の裁量に任されている中での特定の生徒のみに対する支出と考えると、厳しくなるのかもしれない)
学校側への話の持って行き方についても、参加した保護者からの質問があり、丁寧にアドバイスされていた。
学級担任と保護者からの紹介状は、オンラインで直接記入するようになっている。
いくつかのセクションに分かれていて、子どもの特性や強みなどについて説明していくようだ。まだやってみていないので、また記入したら感想を。
こちらの動画で、記入の仕方が紹介されているので、どんな内容か知りたい人はぜひ。
先生に記入してもらう必要があるもの、もしくは校長との話し合いが必要そうなものは、早めにお願いするのが良きであろう。
気づけばもう9月。次の締め切りが10月15日なので、(夫のお尻を蹴って)頑張らねば。
ワークショップは本人が参加し、専門の講師により、1日かけて特性等をじっくりと観察される。
1時間で終わるIQテスト等ではなく、時間をかけてゆっくりと向き合ってくれる姿勢が嬉しい。
Mind Plusのスタッフは、ギフテッド児の特性をよく理解しているから、極端にシャイな子や多動がある子供でも、できるだけリラックスして能力や特性が発揮できるように、丁寧に配慮されているそう。
選考ワークショップを受けた経験のあるお母さんが、自分の子どもは人見知りがありとても心配していたけど、終了して帰ってきた子どもは興奮して「僕、ここに毎日来たい!ここの人たちは、僕のことをすごくよく分かってくれるんだよ!」と叫んだ、と言っていた。
ちなみに、選考は入念に行われ、その子どもにとってこのプログラムが適正かどうか、その子のニーズに合っているかどうか、が考慮されるそうだ。
専門家による正式な診断などは不要。
ギフテッドであるかどうかを確かめるというよりも、このプログラムがその子の特性に適しているかが重要である。
我が家も現在痛感しているが、医師による診断はとにかく高額になるので、そういう意味でも、独自の選考を作ることで、支援を必要としている子どもを取りこぼさないことが徹底されていると思う
意外と高かった参加費用
気になる費用。
実は私は、はじめ無料のプログラムだと思っていた。(あちゃ)
政府の後援を受けているし、NPOだし。
しかし、説明会にて料金説明があり、オヨヨとなった次第だ。
有料でした!
政府からの支援はあるものの、それはごくごく僅かな金額で、それぞれの地域の有志による寄付と、参加家庭の支払う受講費によって賄っているとのこと。
2021年の受講料はこのようになっている。
(Mind Plus Your Schoolは2022年からスタートするためここには未掲載。金額も未定。)
毎週75ドル(約6,000円)+税は、まあまあの出費だ。
年間で40週あるそうなので、年間トータル計24万円。
日本で塾に通わせることを考えたら安いものだとは思うが、ニュージーランドでは、相当勉強が苦手な子だけが家庭教師をつけるような文化。家庭によっては、これだけで「行かなくていいわ」となりかねないと思う。
そういった家庭のために、奨学金制度もある。
家庭の事情に加え、マオリの家庭(国の歴史的に低所得世帯が多い)、女児(現在メンバーがかなり男児に偏っているから)などは、優遇される傾向があるとのことなので、当てはまりそうな方はぜひ相談してみて欲しい。
必要な支援を届けるという強い気持ち
とにかく全編にて、必要な支援を子どもたちに届けたい、特性を持つギフテッド児たちにハッピーな日常と適切な学びを届けたい、と言う強い気持ちを感じる。
自分がギフテッド児を持ってみると、本当に、特性に対するどうしようもないもやもや感を感じる。
それは、特性を原因とした育て辛さによる絶望的な疲労だったり、学びに対する飢餓をどう満たして良いのかわからないもどかしさだったりするのだが、外の人にはなかなか分からない気持ちだろうなとも思う。
彼らによると、ギフテッドというラベルをつけられなかったギフテッド児は、勉強のできる子供時代から、大人になって自分が普通の人間だと気づき、うつ病などになりやすいという。
むしろ、早い時点で正しくラベリングをし、ギフテッドネスについての正しい知識を得ることで、健康な成長が望める、とのことだった。
Mind Plusに関わる多くの人が、ギフテッドという特性が自分ごとであることは、本当に心強いし、そこで気の合う仲間に出会えたら、人生の宝物になるのではないかと、保護者の私としてはワクワクしている。
学びへの渇望はさておき、育てづらさ満載の我が家の長男が、参加できるようになるのかどうかは不明だが、こんなプログラムが選択肢として存在することは、本当に素晴らしい。
生きづらさを感じているギフテッド児が一人でも多く、自分のことを理解しハッピーな子ども時代を送れますように!!
詳細リンク
Mind Plusのホームページ
NZCGEのオーガナイズしているFacebookページ
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Parents Of Gifted Children New Zealand
Mind Plusの詳細が書かれた2021年版パンフレットのPDF
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Information Package 2021
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日本にいた頃から気になっていたLITALICOの、ものづくり教室。
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次回会議までに読みたいと思っていたけど、間に合わないかも…。
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